政府が温暖化ガスの排出量を2050年に実質ゼロにする目標を掲げることが分かった。菅義偉首相が26日、就任後初の所信表明演説で方針を示す。欧州連合(EU)は19年に同様の目標を立てており、日本もようやく追いかける。高い基準の国際公約を達成するため、日本は産業構造の転換を迫られる。
50年に排出量を全体としてゼロにし、脱炭素社会の実現を目指すと表明する見通しだ。50年に二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスの排出量と、森林などで吸収される量を差し引きでゼロにする目標だ。
政府はこれまで「50年に80%削減」「脱炭素社会を今世紀後半の早期に実現」と説明してきた。ゼロまで減らす年限を示さない曖昧な対応で「環境問題に消極的だ」と批判を受けてきた。
「50年に実質ゼロ」は環境対策で先行するEUが同様の目標を掲げている。地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」では「産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える」との目標を示しており、これを満たすための水準だ。EUは前倒しも検討している。
目標実現に向け英国やフランス、ドイツは温暖化ガスの排出量が多い石炭火力の全廃を決めた。
梶山弘志経済産業相は日本経済新聞のインタビューで「(再生エネを)主力電源にしていく」と表明している。とはいえ再生エネの割合は欧州の30%前後に対し日本はまだ17%だ。いま7割の火力の大幅減も簡単ではない。実現が難しければ排出量に応じて課税する炭素税や排出量取引などの本格的な導入が課題になる可能性も出てくる。企業などの負担は膨らむ。
首相は所信表明演説でCO2を再利用する「カーボンリサイクル」や、次世代型太陽電池の研究開発を支援する方針も示す。グリーン投資を促すための施策も検討する。
新目標の設定を受け、経産相は26日にも再生エネの拡大を柱とする政策を公表する。温暖化対策を通じて産業構造の転換を促す。太陽光・風力発電の普及のため大容量蓄電池の開発を援助する。水素ステーションの設置拡大策も示す見通しだ。
石炭火力を休廃止すれば企業は電力の調達コストが上がる公算が大きい。割高でも再生エネの使用を増やし、省エネも進める必要がある。家庭でも燃料電池や電気自動車(EV)、省エネ家電の普及がカギになる。
国際的に活動する企業は対応を急ぐ。トヨタ自動車は50年までに工場などからのCO2排出量をゼロにする計画を15年に掲げた。ソニーは40年までに自社で使用する電力を再生エネに切り替える目標を18年に決めた。
機関投資家はESG(環境・社会・企業統治)を重視して投資を進めている。政府が掲げる新目標に対応するかどうかが企業価値を左右する。十分対応できない企業は退場を強いられる可能性もあり、産業構造の転換を促す目標になりそうだ。
排出量の削減を巡っては消極的だった中国が「60年より前に実質ゼロ」を表明した。米国ではトランプ大統領がパリ協定からの離脱を決めたが11月の大統領選でバイデン氏が勝てば環境問題に積極的に取り組むとされる。日本は国際社会で取り残される懸念が出ていた。