イタリアの研究機関は、半透明の新型太陽電池「ペロブスカイト型」の下で作物を育てると、成長が早くなることを見つけた。光合成に使う波長の光だけが電池を透過して植物に届く。強すぎる光を適度に弱め、地面の過熱を防ぐなどして作物の葉や茎を守る効果もある。太陽電池を設置する適地が減る中で、発電と農業を同時に担うシステムの実現につながる。作物は葉や茎で受けた太陽光をエネルギーに使い、二酸化炭素(CO2)と水から光合成で栄養分を作る。だが、太陽光が一定の強さを超えると、光合成の速度が上がらなくなる。光が強すぎれば葉を傷めたり、地面の温度を高めたりして作物の成長を妨げる。特にビニールハウスなどの屋内栽培では、夏場の温度が高くなりやすい。強烈な太陽光の一部を太陽電池で遮って適度に弱めれば、成長に有利になる。欧州や日本では一部の農家が農地に太陽電池を設置し、余分な光を発電に使う「営農型太陽光発電」に取り組んでいる。その背景には太陽電池を設置する適地の減少がある。国際エネルギー機関(IEA)によると、平地に置いた太陽光発電設備の容量は2019年時点で日本が1平方キロメートルあたり470キロワットと、米国やインドの約30倍に達する。ドイツも219キロワットと高い。温暖化の防止に向けてCO2を排出せずに発電する太陽電池の増設が相次いできたが、設置場所の確保が難しくなりつつある。農地やビニールハウスの上に太陽電池を設置すれば、発電量を増やせる。だが、既に普及したシリコン型は太陽光の大部分を遮り、日陰をつくる。作物の成長に必要な光まで奪い、収量が減る懸念がある。そこで半透明のペロブスカイト型に白羽の矢が立つ。電池を作る材料の成分を調整すれば、透明度や色を変えられる。また、作物は特定の波長の可視光を光合成に使う。あまり利用しない光は発電に使える。イタリア学術会議傘下のマイクロエレクトロニクス&マイクロシステムズ研究所(CNR-IMM)は、ペロブスカイト型の下に植えた作物の成長を調べた。2.5センチメートル角の4枚の太陽電池を使い、室内で発光ダイオード(LED)の光を当てた。光の波長や照射する時間帯を太陽光に合わせて自然の環境を再現した。赤色の光だけを通すタイプの太陽電池の下で、チコリの仲間の野菜を育てた。作物の成長を促す波長は品種ごとに異なる。この野菜は赤色の光が多く、青色の光が少ないと葉の成長が早まる可能性がある。光の大部分を通すガラスと比べた。すると15日後にガラスの下で育てた株は1本の茎に葉が2本ずつ付いたが、ペロブスカイト型の下では3〜4枚ずつあった。茎あたりの葉の総面積も25%大きかった。3月に論文を英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載した。研究チームは「ペロブスカイト型は、太陽光を適度に遮る有用なフィルターとして使える」と期待する。ビニールハウスなど屋内での栽培に使えるほか、屋外の農地での利用にもつながる。ペロブスカイト型を農地に設置する発想は以前からあった。だが、作物の成長に与える効果を確かめた研究はほとんどなかった。ペロブスカイト型を発明した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授はCNR-IMMの研究成果について「発電と植物の育成を同時にできると示した」と評価する。日本でも農地で使う実証実験が始まった。宮坂特任教授らは24年、農業関連サービスを手掛けるノウタス(東京・港)が持つ大阪府のブドウ農園に小型のペロブスカイト型を3枚設置した。宮坂特任教授は「(作物の成長に)100%の太陽光はいらない。特に夏場は温度が高くなるため、発電に利用するといい」と話す。ペロブスカイト型は軽くて折り曲げられる使いやすさが特長だ。ただ、材料が含む鉛が劣化や雨で土壌に溶け出す懸念がある。同じ半透明の有機薄膜太陽電池は発電効率が下がるが、鉛を含まない。公立諏訪東京理科大学の渡邊康之教授らは栽培施設の上に設置し、イチゴを栽培する実証実験を23年に始めた。葉の枚数が増えるとわかった。糖度や収量を分析する実験に取り組む。太陽電池で電力を供給すれば、給水装置や照明の電気代を抑えられる。渡邊教授は「農業とエネルギーはセットだ。新技術は食料安全保障につながる」と話す。富士経済によるとペロブスカイト型の本格的な量産は20年代後半に始まる見通しだ。40年には世界市場が23年比で60倍以上の2兆4000億円に拡大する。有機薄膜太陽電池の世界市場も40年に1000億円になる。